会社を休んだ日は

目が覚めるとみぞおちのあたりがひどく痛んだ。開けっ放しのトイレに駆け込んでしばらく踏ん張る。鼻で叫ぶ。腹を目一杯さする。

昨夜は料理する気も起きない日で、随分昔に買っておいた激辛インスタント麺を茹でた。電子レンジで。丼に乾麺とかやくを入れ、ひたひたに濡れるまで水を注いで、蓋を閉めずに600Wで6分。麺が少し固かったからか、激辛が体調に合ってなかったからか、真相はわからないけど、どうやら腹を壊したらしい。

5分に一度、波が訪れる。波が収まるまでは動くことも困難だ。家を出たら8分は歩かなくてはならない。このまま家を出たら駅に着く頃には、きっと取り返しのつかないことになっているだろう。とりあえず、午前中だけ会社を休むことにした。

 


申し訳ない気持ちでいっぱいのまま男性の上司に報告すると、大丈夫?無理しないでね、と返事が。本当に優しくてありがたいけど、腹痛まで報告してしまったので月経だと思われるのはなんだか忍びないな。一部の界隈で、生理を恥ずかしいことだと思わないムーブメントが起きていて、すごいなと思う。わたしはまだ恥ずかしいと思う側の人間。午前中しか休みを取らなかったのも、きっとその思考の延長線上にあると思う。早く向こう側に行きたい。

 


そんなことを思っているとまた腹痛が襲ってきて、大きなライトグレーのラグの上に寝転がってうーうー言った。ラグの毛が目に入りそうになって、目で払う。こんなにごわごわしてたっけ。うさぎが心配そうにこちらを見ている。

寄せては返し、寄せては返しの波の中。なぜか全く関係ないことばかり頭に浮かぶ。あれやんなきゃとか、あのこと考えなきゃとか色々思ってたけど、結局ぽつぽつ浮かんでは消えた。11時半には波は弱まり、そういえばラグがなんとかって考えてたよなと思い出し、手を伸ばしてスマホを取った。『ラグ洗い方』で検索する。浴槽での踏み洗いが有効らしい。

冷静に見渡すと、この部屋は余裕がない。脱ぎ捨てられた服、置く余地のない机。午後の出勤まであと2時間ちょっと。こういう時間って、こういうことをやるためにあるのだろう。

 


脱ぎっぱなしの服を一枚一枚畳み、押入れに入れる。そしてめりめりとラグをめくる。意外と重たくて尻餅をつく。うさぎはなにが起きたのか理解できてなくて、うろたえている。

やっとの思いでラグを持ち上げると、なんだわたしだって休めるじゃないかと思った。「腹痛おさまったらすぐ行きます!』とか言わなくてよかった。これはわたしが勝ち取った午前休だ。今日わたしはやっと休めたのだ。その証拠にこのラグを洗ってやる。そして洗いたてのふかふかのラグに横たわって今日はうさぎと眠るのだ。

やってやったぞと言わんばかりの表情でふと外を見ると、レースカーテンの受ける形がやたら激しくて不安になった。天気を調べてみると、東京ではこれからよくわかんない時間に雨が降るらしい。わたしはラグをそのままその場に置いて、しばらくその上に座ってしまった。うさぎはお気に入りのラグが戻ってきて嬉しかったのか、ぴょんぴょこ走り回っていた。

さっきまで遠くで響いていた体育の時間の声は、もう聴こえなくなってしまった。次にラグを洗う気になるのは、この部屋を引き払う頃かもしれない。心の入る余地のない時間が、あと1時間で始まる。それは永遠に終わらないように思えた。