朽ち果てるその前に

19歳の時、予備校に行く道で顔からコケて、前歯が少し欠けてしまった。すぐさま周りの大人に歯医者に連れて行かれ、欠けた部分を補うように詰め物を施し、元どおりの前歯の形に仕立ててもらった。

時は過ぎ22歳の頃、学食でカレーを食べていたら、その前歯の詰め物が取れてしまった。歯医者へ行くと、詰め物の隙間から食べかすが入り、虫歯ができてしまっているとのことだった。大人虫歯によくある事例らしい。詰め物の色は変色しなんとなく違和感があったので、取り替えるのはちょうどいいと思った。4年前に割れた場所を少しだけ削り、少しだけ大きな詰め物に付け替えてもらった。

さらに時は過ぎ25歳の頃、大学院でポテチを食べながら作業していたら、前歯の詰め物が取れてしまった。歯医者へ行くと、詰め物の隙間にまた少しの虫歯ができているとのことだった。紅茶にハマってステインで元の歯が少し茶色くなったせいか、詰め物との境目も目立って来ていたので、ちょうどいいと思い、6年前に割れた箇所をまたさらに少しだけ削り、さらに大きな詰め物に付け替えてもらった。

そしてさらに時は過ぎ27歳、会社で夜ご飯を食べていたら、前歯の詰め物が取れてしまった。20時を回っても営業している歯医者をなんとか見つけ出し、すぐさま駆け込んだ。案の定、詰め物の隙間には少しの虫歯ができているとのことだった。紅茶はもう飽きたし詰め物も変色してまるで毎日歯に何かが挟まっている人みたいでとても違和感があったのでちょうどいいと思い、8年前に割れた箇所をもう少しだけ削り、さらに大きな詰め物に変えてもらった。

「詰め物が大きくなって欠けやすくなってますから、固いものはあまり食べないようにしてください。欠けたらまた取り替えますけど、もしあまりに欠けるようでしたら被せる方法も考えますので、その時は言ってください」

前歯のこれからについて言及されたのは、これが始まりだった。

 

身体に精神が追いつかなくて、自分は歳を取らないと信じている節がある。半年前、アラサー用のパックを初めて試してみた時、あまりのフィット感を信じたくなかった。健康な皮脂も、歯も、髪も爪も、いつまでもあるものだと思っていた。

もうわたしの体は成長しない。あとは朽ちていくのを待つだけだ。

その朽ちて行く身体をなんとか維持するため入れ替わり立ち替わり人工物を継ぎ足しているけれど、その度に自分の細胞の面積を擦り減らしている。そのせいで1つの細胞の集積所が、立ち退いてしまいそうになっている。

こんなこと意味があるのだろうか。でも維持しなければならない。まるで綺麗な時間だけが自分の前を常に通り過ぎているように見せていたいから。

19歳の過ちはもう戻ってこない。今のまま止まってもくれない。時間は進むのみ。3回目25歳の時までは買えなかった電動歯ブラシとちょっといい歯磨き粉で、これから自分の前を過ぎ行く時間を、永遠に綺麗に見せることはできるだろうか。