大人の遊び

優しいことばをかけてくる人は、本当に優しい心を持っているんだと思っていた。 腹の奥から、優しい気持ちが自然に湧き出ている。まるでベビーパウダーのように細かい粒子が常に体のそとへ漏れ出し、まわりにふわふわと心地よい溜まり場を作っている。体内に…

達筆な男

もう何年も会ってないのに、ふと、「今何してるんだろう」と思い出す人が何人かいる。 彼もそのうちの1人だった。 リンは、当時周りにいた男性達とは若干違う立ち位置にいた。当時の交友関係といえば、半年も経てばほとんどが入れ替わりになるようなものすご…

ポルノとファンク

昨日は彼氏とカラオケに行った。いつものように各々好きな歌を歌っていたが、わたしの松浦亜弥を皮切りに、00年代のMステスペシャルみたいなラインナップになった。いきものがかり、ORANGE RANGE、aiko、ポルノ。ポルノだけやたら歌い方がアキヒトっぽいねと…

会社を休んだ日は

目が覚めるとみぞおちのあたりがひどく痛んだ。開けっ放しのトイレに駆け込んでしばらく踏ん張る。鼻で叫ぶ。腹を目一杯さする。 昨夜は料理する気も起きない日で、随分昔に買っておいた激辛インスタント麺を茹でた。電子レンジで。丼に乾麺とかやくを入れ、…

平日ではない名前

ゴールデンウィークの間、わたしは完全に西片例だった。 何を言っているか理解できないと思う。わたしもあまりわかっていない。 西片例という名前は、わたしがわたしにとりあえずつけた名前だ。この名前は非常に便利で、絶妙に本名っぽいから本名と思われる…

作品「the empties(仮)」について

明日と明後日、修了ぶりに新作を発表します。 題名は「the empties(仮)」。明日ちゃんと決めます。 以下、概要文的なやつ ーーーーーーーーーーーーーーー なにか目に見えない、でも大事な時間がものすごいスピードで進んでいることはわかる。ニュースによ…

朽ち果てるその前に

19歳の時、予備校に行く道で顔からコケて、前歯が少し欠けてしまった。すぐさま周りの大人に歯医者に連れて行かれ、欠けた部分を補うように詰め物を施し、元どおりの前歯の形に仕立ててもらった。 時は過ぎ22歳の頃、学食でカレーを食べていたら、その前歯の…

糸をかき分けて

実家を出たと同時に、必要のない縁は全て切れたと思っている。それと入れ替えにいい縁も舞い込んで、わたしの周りはだいぶ整理整頓された。 実家にいた頃は逆で、縁で溢れてた。大事な縁も、そうじゃない縁も。家族とは反りが合わない、担任は会えば進路相談…

血を抜かれた日

10代の頃、知らない人と会っていたのは暇だったからだと話すと、東京の子っぽいなあと言われた。自分は生まれてこのかた東京でしか暮らしたことがないので、はあ、という感じなのだけれど、本当にあの頃会ってた人たちって、この自分じゃ埋められない時間を…

チョコレートの憂鬱

先月から重ねた逢瀬は、いまのところ毎回着実に結果を出していた。おかげで今わたしたちは、旬のとろけかけの一番甘い部分を渡っている。この甘い部分の続きを味わうために、わたしたちはそろそろ、この関係に名前をつけることになるだろう。 2月。年末の溢…

冬の花火

人はどこからがマトモなのかわからないけれど、「友人の紹介」で「マトモな人」と出会ったのは今年のはじめ。 出会ったというより、強制的に出会わされた。知らないうちに「友人」に、水曜日の夕食を誰とどこで食べるかを勝手に決められていたのだ。親切。お…

退屈を解消する一番の方法は、男性のために知らない土地へ行くことだった。 学校が終わると掲示板に自分が暇を持て余していることを書き、誰かが反応してきたら連絡先を交換、1時間以内には合流。3時間後には解散。 何に突き動かされていたのか今でも謎だ。…

仮面舞踏会

午後10時。シャワーを浴びたばかりの火照った顔が、今宵も曇ったガラスに映る。袋から爪の先1枚だけ取り出したシートマスクをそっと宙で開く。そのままおでこ、あご、そのまま頬に伸ばし、鼻を包み込んで顎に貼っていく。シーツをベッドに伸ばすように、…

クリスマス解放宣言

平日の夜なのでジムに行く。大好きなプールに入りたくて、更衣室の床に水着セットをぶちまける。なんだかボリュームが少ない気がして、その場で手をガサガサ入れてみる。水泳キャップの感触がない。 仕方がないのでプールは中止にして、少し早いけどお風呂だ…

諦めをひろった日

アニメや漫画の世界に出てくるような、「清らかな」小学校に通っていた。女の園。着崩すことを許されない、揃った制服。朝と夕方、そして食前食後の長い長いお祈りを淡々とこなし、週に2回は聖堂。先生にタメ口などもっての他で、通り過ぎる際には「こんに…

UMAの真実

ネス湖のほとりに小屋を作って、ネッシーを四六時中観察している人がいる。少年の頃に見たネッシーが本当に存在することを世界に証明するためらしい。 そもそも今から1500年ほど前から目撃談が叫ばれているにも関わらず、今日まで捕獲には至っていない。様々…

小さきものたちの夢

部屋の中で、小動物を飼っている。部屋に迎え入れるのは、子猫や子犬、うさぎやモルモット、ヒヨコに毛虫と、毎回ちがう、小さくてもこもこした動物だ。それを優しく両手で包んで、使っていないタンスの引き出しに入れてやる。床下、ベッドの下の隙間などの…

わたしのあそこ

動物に噛まれる夢を見て目が覚めた。股間がひりひりするのと同時に、熱を持ってメチャクチャかゆい。寝ている間にものすごい掻いてしまったみたいだ。抜け殻みたいに安物のショーツが足をつたってするりと抜けた。少し前にもこんなことがあった時に買ってお…

わたしたちの冒険

久しぶりに会ったミサキは、人の蒸気が絡みつく新宿の雑踏に紛れていてもすぐにわかった。だって驚くほど何も変わっていなかった。短く切った髪、さっぱりしたメイク、個性的なワンピース。 わざわざ休みを合わせて会うほどの仲ではなかったけれど、ひとつ下…

半分の夜

子供の時母から一人用の敷布団が与えられてから、わたしにとって夜とはずっと一人のものだった。 たとえ家ではない場所で同じ布団を誰かと分かち合って、その下で互いの手が触れ合っていたとしても、その夜を誰かと分け合っているという意識は感じたことがな…

記念品

休み時間。教室から少し離れた先にあるトイレは、花のような香りとほのかな酸っぱい匂いが立ち込めていた。鏡の前では、無数の女の子たちが所狭しと並んで化粧を直している。ブラウスの肩と肩が少しずつ触れ合うその隙間に、わたしはいつものように体を斜め…

ティッシュの眼差し

鈍い赤青緑のつぶつぶが、ぽつり、またぽつり、と光り始めるのと同時に現れた居酒屋と風俗のキャッチから逃れるように進む。下を向きながら歩くと、様々な発見がある。横断歩道は剥げてくるとごましおみたいに見えること。ネズミが昔より増えたこと。吐瀉物…

ほぐせぬまま

高校生の時も、なにかと気を使う場面が多かったと思う。友達付き合い、彼氏の前、親や先生の前。あとあの頃はコンビニでのアルバイトも始めたおかげで、大人と接する機会が多くなった。突然の大人扱いは少し嬉しくもあり、疲れるものでもあった。 だから近所…

証人

以下の記事の続編です。前半に書いてある話の詳しいことは、この記事に書いてあります。 leinishikata.hatenablog.com 風が当たりすぎるあのカフェは汗を一瞬で奪って行ったはずなのに、再び噴き出した汗がTシャツに染みを作っていたのを見て、この世界で実…

0.03mm

今や0.01mmが登場しているのだから、すごい時代である。でもやはり自分としては0.03mmくらい厚さがある方が安心できる。コンビニに行けば必ず置いてあるし、いざという時でも大丈夫。欲しい時にすぐ買える。 喉がからからで目が覚めた。狭いシンクに向かって…

陰日向

今週のはじめ。空気のこもり気味な部屋で、何日か前に作り置いていたカレーを温めていた。 冷やご飯もせっかく温めていたのに、ラップを取って少し浅すぎるお皿に盛り付けると、すぐに熱が奪われてしまった。冷蔵庫の中で眠っていたカレーは、少し固くなって…

まだ見ぬ坂道の果て

久しぶりに歩く道玄坂は、とてつもなく長い道のりに感じた。2018年の夏はもうすぐそこまで来ているようで、待ちきれずに翳りのある坂の隙間から丸く小さい光をゆらゆらとこぼしている。平日だというのに、渋谷という街はどこもかしこも若い人だらけで、人と…

わたしのなりかけのもの

桃、メロン、デコポン。人は乳房を果物に例えたがる。かぶりつきたくなってしまうからか。溢れ出た最後の一滴さえも飲み干してしまいたいからか。 わたしには乳房が無い。小さいのではない。シャワーで、更衣室で、ベッドで、わたしの裸を見たことがある人は…

バスに乗って

先週も会社で、あいも変わらず下っ端業務をこなしていた。雑用係は嫌いではない。余計な責任を追わなくてもいいから。でも、せっかく入ったので早くここから脱却したい気持ちもある。なにか大いなることをして、周囲のひとをあっと驚かせてみたい。会社の人…

NOW ON AIR

わたしの席は、うしろにラジオがある席だ。 下っ端のわたしは、毎朝一番早く会社に来てラジオにスイッチを入れる。突起物を指で軽くぽんと押してしばらくすると、息を吹き返したように爽やかな時間を一気に奏で出す。それまで静まり返っていた部屋は、一気に…